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ヨーコのよろめきコラム 第14回

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 あるときは踊り子、あるときはライターと、自由自在に生きるヨーコ姐さんのちっちゃなことかもしれないけど、とっても大事な話。

(ライター・ヨーコ)
第14回 新たな日々

 

 多頭飼育現場からレスキューした犬が私の家にいた。テンちゃんという人懐っこく素直な犬がいた。一度は里親が見つかり、フィラリア治療のために私の自宅で待機していたところ、里親希望者の方から急に飼えなくなったと連絡があり、テンちゃんは行き場をなくしたのだ。元いた犬舎に帰らせることも出来たが、糞尿だらけで日も当たらす、ノミやダニが大発生している劣悪な環境に戻すことはどうしても出来なかった。
 
 レスキューしたときのテンちゃんは、10歳にもなっているというのに、肉球は子犬のように柔らかく、脚の筋肉も薄っぺらい状態だった。あの薄暗い犬舎の中で、散歩にも連れて行って貰えず、フィラリアの治療も受けることなく、10年もの時を過ごしていたのだろう。散歩に連れて行き、おやつを与え、お風呂に入れて、ブラッシングをし、お手とお代わりとお座りを教え、彼氏と共に1日に何度も何度も撫でては慈しんだ。初めて人間の愛情を知ったテンちゃんを、元の場所に戻すなんて可愛そうで出来なかったのだ。

 

 私の家にいても、タロウとの折り合いが非常に悪く、洗面所に引きこもっていたテンちゃん。タロウがいないときでも、タロウの縄張りの見えない線引きがあるのか、廊下の先にあるリビングと寝室には絶対に入っては来なかった。ご飯の時間にも、おやつをあげる時にも唸り合い、どうにも手のつけられない仲の悪さだった。
 
 

 早く里親を見つけてあげないと、このままではテンちゃんをレスキューした意味がない。肉体的な健康を取り戻したところで、タロウとの折り合いがこれだけ悪ければ、テンちゃんの精神面においては、元いた犬舎と代わり映えしないのではないか。しかも、私が東京に引っ越したら次に住むマンションに、今のような広い洗面所はない。またタロウに追いやられて、今度はあの狭いユニットバスがテンちゃんの住処となるのだろう。それを考えると不憫で不憫で心が痛んだ。早くどうにかして里親を見つけてあげないと......。

 

 沖縄を離れる3日前のこと、彼氏がテンちゃんを実家に連れて帰った。夏休みで実家を訪れている子供達にテンちゃんをお披露目して、お泊まりさせているのだろうと思っていたのだが、引っ越し当日になっても彼氏はテンちゃんを連れて帰ってくることはなかった。

 

「テンちゃんは? 」

 

 訝しがる私に彼はこう答えた。

 

「東京に行ったらひとりで2匹も面倒見きれないだろう。大変だろうからうちで面倒見るよ。テンのことは気にせずに、これからの事だけ考えて頑張ればいいさ」

 

 いくら仲が悪くても、散歩ぐらいは2匹で一緒に出来る。餌代だって一匹も二匹も大して違わないのに......。

 

「一匹と二匹では大分違う。落ち着いて余裕が出来ればいいけど、新たな生活で仕事も私生活もバタバタするだろうし、預けるにしても倍のお金がかかる。俺は苦にならないし、この方が良いと思ったことをしただけ。今、俺にしてあげられることをしただけだから。おふくろもテンと遊んで暇つぶしになるんじゃない? 」

 

 夜が明ければお別れだというのに、私はこの人を置いて東京に出て行くというのに、この人は一体どこまで私を気遣うのだろう。自分を捨てて去っていく女のことを、なぜこうも思いやれるのだろう。
 

 悲しくて、有り難くて、まだこの人が愛おしくて、涙がぽろりとこぼれ落ちた......。

 

 今、私は東京の布団も何もない部屋の中でタロウと一緒にいる。マンション住人の足音が聞こえるたびに玄関先に駆け寄るタロウ。きっと彼氏が帰ってくるのを待ちわびて
いるのだろう。もう帰ってこない彼氏を待ち続けて、タロウはずっと玄関で寝ている。

 

「ごめんねタロウ。おとーたんはね、もう帰ってこないんだよ」

 

 そうタロウに話しかけながら、タロウを抱きしめて嗚咽した。

 

 新しい部屋の掃除をしながら、この家の契約を済ませたときに彼氏から届いたメールを思い出し、泣いて泣いてまた泣きじゃくった。

 

『ちょっと淋しいけど、新しい家が見つかって良かったね。貴女の愛情は親と同じぐらいだと感じていました。今までの女性で一番俺を愛してくれた女性だし、これからも貴
女を超える女性はいないと解っています。愛してくれてありがとう。これからは自分のために頑張って』

 

 テンちゃんは彼氏の実家で一時預かりとなり、みんなの愛情を独占しながら、新しい里親が現れるのを待っている。

 

 私はといえば、タロウと共に、失ってしまったもののあまりの大きさに打ちのめされている。

 

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