あるときは踊り子、あるときはライターと、自由自在に生きるヨーコ姐さんのちっちゃなことかもしれないけど、とっても大事な話。
沖縄に住んでからというもの、『沖縄のご飯はまずいでしょう? 』と、何度となく言われた。市場に並ぶ鮮やかな色の魚たち。本土では絶対に食べない魚だから、イコールまずいという図式が出来上がっているのだろう。うまい米が取れる米所も東北地方だから、イコールまずい......となるのだろう。
私は米に関しては少しうるさい。美味しく炊くのは下手なのだが、うまい米を追い求めることに関してはただならぬ執拗さを持っている。毎年新米が出始める時期には、数々の産地や品種の米を、3kg入りの袋でいくつも買い求めて食べ比べるのが、毎年恒例の秋の行事である。魚沼産コシヒカリが毎年毎年うまいとは限らない。高い米、コシヒカリやササニシキを買えばハズレがないわけではないのだ。フランスのワインのように、年によって出来不出来があり、聞き慣れぬマイナーな品種のブドウでも、その土地でだけ優雅に花開き、とてつもないワインを生み出す、偉大なブドウとなる無名の品種もある。米だってそれと同じなのだ。
4年ほど前の米では、中国地方のヒノヒカリの旨さに卒倒した(産地は忘れた)。3年前には高知県産の仁井田米(ヒノヒカリと十和錦のブレンド米)に衝撃をうけた。2年前には滋賀県産のコシヒカリが、東北産より美味しいと思った。そして去年。全国で一番早く出回る、沖縄県石垣島産のひとめぼれに私は恋をした。去年の米の中ではダントツにうまかったのだ。みずみずしく甘みがあり、もっちりとした歯ごたえ、弾力性、どれをとっても素晴らしい米だった。焼いてしまえば牛肉と豚肉と羊肉の区別も付かない、味音痴な私の彼氏ですら、一口食べた瞬間に「うまい!! 」と唸った米が、石垣島のひとめぼれだったのだ。去年の私はこの米に本当にひとめぼれしたのである。誰だ、沖縄のメシがまずいなんて言ったヤツは。
魚も同じ事だろう。まるで熱帯魚のような毒々しい色の魚。マリンブルーの色したアオブダイを見て、観光客は市場で悲鳴を上げる。しかし私は寿司屋のカウンターで、ひとりニヤニヤとしながらこの魚をつまむのが好きだ。さっと湯通しして皮が絞まった所を刺身にし、口に入れたならばコリコリとした歯ごたえが天国に導いてくれる。この魚がマズイわけがないのだ。色は熱帯魚でも、鯛の仲間なのだから。中国では高級魚とされるミーバイ(ハタの仲間)も、刺身にするには身が柔らかいが、煮付けや昆布蒸し、みそ汁にしたならばもう絶品である。小振りだが凝縮された味の島タコ、甘く分厚い島イカ......。ああ、ハラ減ったーーー!!
市場でたたき売りされているハリセンボンだって、雑魚扱いだが、唐揚げにしてみれば、誰もがふぐと間違える。肝を溶いてみそ汁にしたならば身悶えするようなうまさである。そこらの市場では本マグロの切り身を千円ぐらいで普通に売っている。沖縄の本当のグルメは、観光客が行くところには無いのである。
そして極めつけは沖縄産の島ウニだ。紫ウニ、馬糞ウニと、有名どころは数々あるが、この島ウニの正体は、沖縄でしか食べないであろうシラヒゲウニである。他のウニに比べて色も悪く、これも本土には決して出回らない。だが、甘いだけのウニとは違い、潮の香りと、ほのかな海水の苦みが、甘さと一緒になって脳天を直撃する。捕れたてのプリプリの島ウニは、観光客の行く店にはあまり出回らず、地元民御用達の寿司屋のカウンター下の冷蔵庫に、常連用にひっそりと隠されている。(ざまあみろ! 観光客! )と、ひとりほくそ笑みながら、私は行きつけの寿司屋のカウンターで島ウニを口に放り込むのである。
肉料理にしても他の調理方法にしてもそうだ。日本各地に名物料理は数々あれど、○○料理コースとして、○○に地名を入れられるような、名物料理をコースで出せるところは何カ所あるだろう。だが沖縄には琉球王朝が育んだ琉球料理がある。沖縄のおばあが何百年も受け継いできた、"ぬちぐすい(命の薬)"としてのスローフードが、今もなお島に息づいている。昆布とカツオと豚肉をコトコトと煮込んだトリプルスープをベースにした料理が、マズイはずなどないのである。カツオだしにイカと豚肉を入れ、イカスミで真っ黒にしたスープで、ニガナ(苦い沖縄野菜)を煮た、イカスミ汁を一口飲んだとき、う、うまーーーーい!! と思わず絶叫したもんだ。これもトリプルスープだから、新鮮な材料で丹念に作ったならば、まずいわけがない。おいしくて当たり前なのだ。 まあ、沖縄の食文化を知ろうともしない観光客の皆さんは、ホテルのレストランで、お仕着せの沖縄料理バイキングでも食べてなさいよ。モッサモサのアメリカンビーフのステーキでも食べてなさいよ。向上心のかけらもない調理人がいても決して潰れることのない、国際通りの観光客相手の店にでも行ってなさいよ。沖縄の本当においしい物をみんなに知られたならば、全部東京に空輸されちゃって、地元で食べられなくなるんだから。本当においしい物を食ったこともないくせに、沖縄のメシはマズイって言い続けてればいいのよ。
はいはい。
さあて、今日はなにを食べようかな~。
