あるときは踊り子、あるときはライターと、自由自在に生きるヨーコ姐さんのちっちゃなことかもしれないけど、とっても大事な話。
(ライター・ヨーコ)
第9回 チャンピオンベルト
私の愛犬タロウ。子犬の頃と違って噛み癖も消え、私の手を噛むことは一切なくなった。そして寝ている私を起こしてはいけないと、何も教えていないのに自分から覚えたタロウ。私の顔の匂いをかいで寝てるかどうかを判断し、寝ているときは顔を舐めることもなく、諦めて私の横に寝そべり、一人でおもちゃを噛んで遊んでいる。そんなお利口さんのタロウのことを、私は絶賛大溺愛中なのであるが、例外が一人だけいる。寝ていても加減すらせず、顔に犬パンチを入れて容赦なく叩き起こす相手がいる。それが私の彼氏である。
彼氏は犬をおちょくらせたら天下一品。酔拳のような手の動きでタロウの鼻を叩き、噛みつこうとするタロウを、エキサイトさせるのが得意である。
宅急便が来ようが、郵便配達員が来ようが、絶対に吠えないタロウが「ワン!!」と吠えたなら、彼氏にいじめられ、頭に来たときだと思って間違いない。
手を噛もうとすれば、鼻をつままれ、鼻にデコピンを入れられる。えさを見せびらかして、お手、お代わりと何十回も芸をやらせては、タロウが「ガウー」と文句をいうまで、いつまで経ってもおやつをあげない。たまに痛いことをされてヒャンヒャン泣かされてもいるが、彼氏はそれを「遊んでいる」というのだ。だからこそタロウは彼氏には手加減すらせず、寝ている彼氏の顔面に犬パンチを入れて叩き起こすのである。
きっとタロウにとって私は「やさしいオカン」、彼氏は「戦うオトン」なのであろう。
タロウはお風呂が大嫌いである。「お風呂入る?」と聞けば、速攻でケージの中に逃げて絶対に出てこない。それほどまでに風呂が嫌いだ。風呂とかジャブジャブという言葉も完璧に理解しているので、本当に風呂に入れるときは、一切言葉を発さずに不意をついて風呂場に連行するしかない。なぜなら、タオルを用意して、私も裸になって......という作業をしていると「オカンが裸+抱っこ=ジャブジャブ」という計算が出来るらしく、ダッシュでケージに逃げ込むのである。
何度も風呂場から脱走するタロウをなだめすかし、やっと風呂に入れたある日のこと。「やっとタロウをお風呂に入れたよー」と彼氏にその顛末をメールで報告していたのであるが、彼氏が帰宅するなりタロウは「キャイ~~~ン、キャ~~ン、キャイ~~ン」と玄関先で激しく鳴いた。何事かと思って台所から顔を出すと、彼氏はタロウの手を引っ張り「はい。タロウ、もう一回ジャブジャブしようか? お風呂だよ~」といいながら、風呂場に連れて行こうとしている最中だった。激しく泣いているタロウの顔はまるで、(オカン!! 何かの間違いだ!! さっき風呂入ったって、ジャブジャブ終わったばかりだって、言ってくれよ! オカァァーーーン!!!!! ).....といわんばかりの顔だった。
爆笑しながらも「もう、やめなさいよ。タロウをいじめないで」と何度彼氏にいったことだろう。しかし、2歳になったタロウにも反抗期が訪れ、人間でいうと高校生ぐらいなのだろう、彼氏の命令を聞かないという自我が芽生えはじめている。もうそろそろ外で煙草を吸い、バイクを盗んでは暴走し警察に補導されるのも近いだろうと、オカンは覚悟を決め、腹をくくっているのであった。
そしてとうとうタロウが父親を超える日がやってきた。
タロウを車に載せて彼氏の勤務先までお迎えに行ったある日のこと。停車中の車の中から身を乗り出して外を眺めていたタロウをビックリさせる為に、タロウに見えないところから近づいて来る彼氏。突然タロウの前に顔を出した彼氏は、戦いのゴングが鳴ったと同時に「アガーーーー!!(沖縄方言で痛いという意味)」という雄叫びと共に、夜の国際通りに沈んだのである。
そう。興奮したタロウの犬パンチを、顔どころかモロに眼球に喰らってマットに沈んだのである。
オトンを病院送りにしたタロウは、その日以来「チャンピオン」と呼ばれて、車の座席も後部座席から助手席に昇格し、全ての面で優遇された生活をしている。そしてタロウの顔を見ることすら出来ずに、1ラウンド0秒でKO負けした彼氏は、私の車の中では後部座席に追いやられ、犬にすら負けた「へなちょこ」と蔑まれ、肩身の狭い日々を送っているのであった。
【追記】
オトンを病院送りにした一週間後、近所の公園で猫にちょっかいを出していたタロウは思わぬ反撃を喰らい、引っかかれるわ、噛まれるわ、猫キックを喰らいまくったあげくに、ギャンギャン鳴いて逃げ帰った来た。彼のチャンピオンベルトは、公園のメス猫に獲られてしまったのである。
オトンを病院送りにした一週間後、近所の公園で猫にちょっかいを出していたタロウは思わぬ反撃を喰らい、引っかかれるわ、噛まれるわ、猫キックを喰らいまくったあげくに、ギャンギャン鳴いて逃げ帰った来た。彼のチャンピオンベルトは、公園のメス猫に獲られてしまったのである。
結果として私の彼氏は『猫より弱いへなちょこ』というタイトルを獲得することとなり、「公園のチャンピオンキャットをオレが倒したら、チャンピオンベルトはオレの物だからな!! 」と、たかが猫ごときに激しく闘志を燃やし、更なる『へなちょこ』な日々を送っているのであった。
