あるときは踊り子、あるときはライターと、自由自在に生きるヨーコ姐さんのちっちゃなことかもしれないけど、とっても大事な話。
(ライター・ヨーコ)
第7回 タロウ
私の犬タロウ。飼い主はバカなのに、なぜかウチの息子は非常にお利口さんで、宅急便や郵便局の人が配達に来ても絶対に吠えることはない。飼い主の私ですらタロウの吠える声を聞くのは週に1回か2回ぐらいしかない。
おしっこ癖もウンチ癖も非常によろしく、ペットシーツを用意していても、家の中では絶対といっていいほどウンチもおしっこもしない。どうしても我慢できなくなったときだけ、ペットシーツでしてくれるのだが、これもせいぜい2~3ヶ月に1回程度のことだ。
おかげで安心して車に乗せて買い物にも行けるし、友人宅にも、飲み屋にでも、どこにでも連れて行ける。建物の中ではおしっこやウンチを絶対にしてはいけないというルールが、ちゃんとタロウ自身の中に確立されているからだ。
犬を飼っている人たちは、そんな犬を羨ましいと思うだろう。だが実際はとてつもなく大変なのである。家の中でウンチをしまくってくれる犬で良かったと、タロウと生活してみれば必ずや思うことであろう。
なぜなら、このタロウルールに従って生活するとなると、どんな大雨の日でも1日2回の散歩に連れて行かないといけないのである。私の住んでいる沖縄でなら、突風と豪雨の吹きすさぶ大型台風の日でも、なーにがなんでも散歩に行かざるを得ないのだ。(外は集中豪雨じゃねぇーか!! もう今日は散歩は勘弁して下さいよーーーー!! )と、タロウを家に閉じこめても『早く散歩に連れて行ってくれなさい! 』といわんばかりに、手で顔を何度も引っ掻かれる。玄関先で座り込み、ドアに向かって『きゅーん、きゅーん、ひゅーん、くーん、くん......』と、切ない声でひたすら泣き続ける......。
「わーーーーかったよ!! 行けばいいんでしょ! 行きますよ!! も~っ、はいはい」
根負けするのはいつも私の方だ。仕方がない。私はタロウの【飼われ主】なのだから。
だが、ずぶ濡れになるのは犬だけで十分だ。私はごめんこうむる。車にバスタオルを敷き詰め、何枚もタオルを用意し、タロウを車に乗せて公園に向かって走らせたのは、正月明けの土砂降りの深夜だった。
前にも書いたがタロウという犬は、車に乗せれば、助手席の窓から身を乗り出し、サイドミラーにアゴを載せて走る癖がある。これも彼が頑なに固持しているタロウルールだ。そう。どんな土砂降りの雨の日でも、寒風吹きすさぶ冬の日も例外はない。『窓を開けてくれなさい! 』タロウは窓を引っ掻き、くんくん泣いてはタロウルールを貫き通すのだ。
深夜の公園でタロウを放牧し、ウンチを回収するときだけ車から降り、遊び飽きたタロウが車に戻ってくるのを待った。そしてタロウが車に乗るやいなや速攻でタオルで揉みしだき、拭きまくる(車の中でブルブルされて、しぶきと泥を振りまかれたら堪らんがな)。
濡れたついで、外に出たついでに、私はそのまま深夜営業のスーパーに行くことにした。タロウは相変わらずご機嫌で、開けた窓から身を乗り出し、雨のしぶきを浴び、風を切って走っている。私はガタガタと震えながら、左手に持ったタオルで、車の中に入った雨を拭き拭き、タロウがブルブルとしぶきを飛ばす前に、頭と身体を拭きながら車を走らせる。
窓を閉めればいいだけの話なのであるが、タロウの【飼われ主】である私としては、タロウルールという彼の信念を打ち砕くことは出来ない。だが、運転は危なく、いちいち拭くのもめんどくさい。私は窮余の策としてタロウの頭にタオルを巻くという"ほっかむり大作戦"を決行することにした。
手を叩いて腹を抱えて笑い転げるタクシードライバー。信号待ちの度に左車線に停まった車から、悲鳴が聞こえ、嗚咽が聞こえ、ぜんそく発作時のような、ヒーッヒーッという喘ぐような、苦しそうな息づかいが聞こえてきた。私のバックミラーの中には、信号が青になっても発進しない車の列。きっと笑い転げてアクセルも踏めないでいるのだろう。
だか、タロウは何事も意に介さず、大雨をもものともせず、タロウルールを頑なに貫き
通し、今日も颯爽と風を切って走るのだ。
